2014年8月18日月曜日

中古カスタムIEMを探る ~『イヤホンばらして平気なの?』~

数年前から、オークション等で
中古のカスタムIEM(つまり他人の耳にあわせて作られた物)
を見る機会が増えてきました。


僕も実は、eイヤ日本橋店さんでJH13proの中古を
買ってました。
週末特価でかなり安く手に入れられたので、
ついったでもこのはしゃぎよう。




「他人の耳にあったカスタムIEMなんて手に入れてどうするの?」
と至極全うな意見が聞こえてきそうですが、
こういうのはリシェル前提で手に入れるのだと思います。
つまり、

1.他人のカスタムIEMを購入(落札)する。
2.それをリシェルサービスをやってるメーカーに出す。
3.自分の耳に合ったリシェル済みカスタムIEMが手に入る!

という流れで、1と2の段階の金額を合わせて、新品より安く済めば
お得なのでは?というこれまた筋の通った理屈で
成り立っている購買行動といえましょう。
僕の先ほどのはしゃぎ様も、
市販価格の1/3でJH13proが手に入るぞ!(僕はリシェル価格がかからない為w)
というまさに「お買い得~♪」という気持ちからです。

しかし、本当にお得なのでしょうか?

8/2にツイッタで情報をもらい、8/3にeイヤホン日本橋店に
朝一で電話。その場で購入し、8/5に届きました。
留守番のうましくんに「ばらすなよ!」と釘を刺したりしながら、
8/5の深夜にご対面。
どんな音なのかな?とりあえず測定してみようかな?
と簡易測定してみると・・・


特性そろってないじゃん・・・これ低域ドライバ死んでるじゃん・・・orz

久々に ” orz ” なんか使いましたが、
これがまさに中古カスタムIEMのリスクになります。
「そのカスタムIEMが正常動作するのかなんて誰も保証してくれない」
一言で表すとこうなります。

こういう場合、eイヤホンさんでは全額返金となるようです。
カスタムIEMは販売店では良品交換が出来ませんから、これは仕方がないですね。


さっき、「お手軽3ステップ」みたいな感じで
中古カスタムの理屈を説明しましたが、
正確なステップは次のとおりでしょう。

0.前のオーナーさんが、壊れてない正常なカスタムIEMを中古に出す。

1.中古を下取りしたお店や個人(出品者)が、適切な管理で正常な状態を保つ。

2.中古を買った人の手元に中古品が届くまで、正常な状態で配送される。

3.リシェルするメーカーが、正常な状態でIEMを受け取る。

4.リシェルするメーカーが、特注のドライバなどを壊さずリシェルを完了させる。

5.リシェルされたIEMが、正常な状態を保ったまま返ってくる。

6.リシェル済みのIEMが、この先ずっと正常な状態を保つ。

前提条件を含めると、7ステップなんですねこれが。
新品のカスタムIEMは、注文から製作、お届けまでに関わる人は
注文したお客様と製作メーカーの2者(輸送業者含めると3者)
ですが、中古だとこれに前のオーナーだけでなく
さらに3名以上関わる人が増えるわけですね。
しかもそれぞれに正常な状態に保つ、というタスクが与えられています。
これらの段階をすべてクリアするのは、なかなか難しいと思いませんか?

まず、0から2のステップ。そもそも中古に出された物が
どんな状態で使われてたカスタムIEMかは、前オーナーにしかわかりません。
ライブ等の過酷な環境で使われていたものから
ほとんど使われずタンスの肥やしになっていたものまで。
一見すべてのドライバが正常に動いていたとしても、
そのコンディションがどうなのかまではわかりません。
BAドライバの残りHPがどれくらいなのかは外からではわからないのですw

更に、中古品というのはメーカーによって
内部の接着剤が劣化してたりして
ポロっとドライバが外れちゃったりします。
ポロっと外れたドライバが輸送中にシェイクされて
壊れたり・・・なんてリスクもあります。
中古品を輸送するにあたって、出品者さんや販売店さんが
適切な梱包で発送してくれればいいのですが、
製作メーカーでないこれらの方々に
適切な梱包方法がきちんと把握できていると考えられますでしょうか?

僕の買ったJH13proは残念ながらこの0から2のステップで
アウトになってしまいました。割と最初のステージですねw
そもそも正常なカスタムIEMだったのか、はたまた輸送中に
壊れたのか・・・それは誰にもわかりません。そう、わからないのです・・・。

次に3から5のステップ。
現在国内でリシェルサービスをやっているカスタムメーカーは
なく、全て海外メーカーに任せる事になります。
海外発送となると飛行機輸送になりますが、
荷物の扱いってどうなんでしょうね。
てかものすごい数の人がこのステップで関わってきますよね厳密に考えたらw

輸送の問題をクリアしたとしても、
カスタムを殻割りしたり、半田付けをやり直したり、
樹脂に埋まったドライバを取り出したり・・・
リシェル作業というのは新品のカスタムを作るのと同じか
それ以上の慎重な姿勢が要求されますが、
だいたいどこのメーカーもサービス価格が低く設定されているため、
熟練工や職人を割り当てるということは可能なんでしょうかね・・・。

最後に、個人的に一番の問題と思う6のステップ。
仮に、このJH13proが無事に正常品としてリシェルが完了して
新オーナーの手元に届いたとしても、
これはJH13proであってJH13proではないのです。
本来受けられるはずのメーカー保証等も一切受けられません。
JH13proが壊れたらJH Audioに相談するのが当たり前で、
JH Audioなら壊れたJH13proも直せるでしょう。
しかし、他のメーカーがリシェルした時点でJH Audioの保証は受けられません
本来なら当たり前のことも、
この新生中古品カスタムIEMに限っては当たり前ではないのです。

カスタムIEMの中古購入はギャンブルです。
そして、仮にギャンブルに成功したとしても、見返りが十分と言えるでしょうか。

ギャンブルであると理解し、博才があり、それでも見返りが十分だと考える人が
手を出していい中古市場。ほんまに厳しい世界やでぇ・・・



なんか可愛そうになってきましたね、このJH13proくん・・・
なんとかならないものでしょうか。

ふと机の上を見るとTF10の姿が。


「イヤホンばらしてへいきなの?」

(つづく)