2017年8月14日月曜日

KL-THANATOSを作ってみよう!~24ドライバIEM作成編~

夏が本番になってきましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
学生の皆さんは夏休みに突入して、暇を持て余している方も多いでしょう。


先のポタフェス大阪に洒落で持ち込んだKL-THANATOS、片耳24ドライバです。
THANATOS(タナトス)、それは死神…中二心をくすぐるでしょう?
時間がある方、本日はこれを作ってみましょう!

【用意するもの】

・根気、くじけない心
・洒落に7万円くらい投資する財力 (片耳なら3万5千円くらい)
・WBFK-30095 を6個 
・RAB-32063 を6個
・DTEC-30008 を6個(デュアルドライバなので、12機のBAがここでカウントされる)
・UV系の樹脂(たぶん中空で作るのは無理なので二液性硬化樹脂でも可)
・コンデンサ、抵抗、MMCXなどの各部品

特に最初の二つは重要で、ポタフェス後にいたずらに左耳のTHANATOSさんを召喚しようとしたら、
死神様の機嫌が悪かったのか、3つのWBFKが一瞬でお亡くなりになりました。



これだけで6500円くらいがパーになってます。ここで僕は心が折れました。
なので最初の2個は非常に重要なのです。

【高域用のWBFKを6個なんとかする】


もともとNEXT5シリーズを作っている副産物で生まれたTHANATOSだったので、高域用のBAはWBFKです。
最近はやりのSWFKとかだとデュアルドライバなので、6BAにしてもスパウトの数は3つ。
ですがWBFKはシングルドライバなのでスパウトは6つです。


10mm*7mm*2mm程度の樹脂片①を用意し、 6つのスパウトを受ける穴をあけます。
穴をあけたら、音導となる溝を彫り込んでいきます。6つの穴をつなげるように、
ドーナッツを思い浮かべながら彫り込みます。深さは1.5mm程度あればいいでしょう。
真ん中に明けた穴については、後程。

10mm*7mm*1mm程度の樹脂片②を用意し、上記の樹脂片に貼り付ければ(貼り付ける際は彫り込んだ面を
上にして貼り付ける。)6つのBAをまとめる音導管を構成する樹脂ユニットができます。

樹脂片②の片隅に穴をあけ、彫り込んだ音導につながるようにします。
この穴に音導チューブを接続して、WBFKの音導管のできあがり。

6つの穴にBAを固定していきますが、BAの配線は画像のようにしましょう。



なぜなら、このぱかっと空いた穴に、RAB-32063とDTEC-30000の音導管を通すからです。
何でこんなことをするかというとですね、WBFKの音導管長を短くする必要があるからです。
大体、10mm~15mm程度ですかね。

BAドライバをシェル内にいっぱいに詰め込もうとすると、 カナル部が
高域用のBAドライバで埋め尽くされてしまうことがあります。

音導管長を伸ばせば、高域用のBAユニットも、もっとスペースのある場所に収納することができます。
JH audioがやってるFreqphaseなんかは40mmくらい音導管長をとってますが、
あれは位相をそろえるほかに、実装スペースを確保する目的があるんではなかろうかとにらんでます。知らんけど。

もちろん、WBFK6個積んで、上記のような樹脂ユニットに接続し、音導管を長くすれば
わざわざWBFKの間にRABとWBFKの音導を通す必要なんてないんでしょうが、
まぁ、めちゃめちゃパクられまくってるFreqphase的なものをいまさらやるの芸がないですし、訴訟怖いですし。 


 ということでブスリ♂
RAB用の音導管とDTECの音導管は先に通しておきます。音導管の長さは実装の都合で柔軟に
変えられた方がいいので、十分に長く採っておきます(60mmくらいあれば十分でしょう。

【中域用RABの音導管を何とかする】


高域用のWBFKはなんとかなりましたが、今度は中域用のRAB×6個をなんとかしましょう。
ただ、さっきと比べてこいつらはなかなか大きい!WBFKのように前面に空間を持った
ハウジングに収めましたが、前から音導管を出そうとするとシェル内に収まりません。
そこで、KL-サンカのようにハウジングから横出しすることにしました。



ハウジングに実装して各RABを鳴らし見ると、音導から一番遠いRABの音が大きく聞こえます。
ハウジング内の空間がメガホンのような効果を持って、出口から一番遠いRABの音を増幅させているんでしょうかね。
各RABに均等に仕事をさせるにはやはり対照性を持ったハウジングを設計して、音導の位置を
対称軸上に設置すべきなんでしょうが、まぁ今回は遊びということで。
また、実際にそうしたハウジングを設計したとして、実装できるかは分かりませんしね・・・。



実装するとこんな感じ。先ほど通したRAB用の音導管をつなげます。ハウジングと音導管の間の隙間に、
WBFKとRABのネットワークを滑り込ませます。



ちなみに、各BAドライバに結線した
内部配線材は、途中でまとめています。そうしないと実装できないからです。

この辺でもまだ音が鳴る完成品になるのかまったく手ごたえがありません・・・(汗
作業時間がめちゃくちゃかかる割りに、それが一つの失敗で一瞬にして
水泡に帰す、という緊張感をもって作業をすすめましょう。

・・・なんで遊びのものにそんな緊張感を強いられなくてはいけないんですかね(半ギレ

【DTEC6個の音導を何とかする】

何とかしてばっかりじゃねーか! という皆さん。これで最後です。
THANATOS様の最大にして最も凶悪な部位、12個のBAドライバが詰まった6個のDTECユニットを何とかしましょう。



DTECはデュアルドライバで、1個につき2個のBAドライバが搭載されています。
これにより、6個のDTECを積む事で、12個のBAドライバを稼げるわけです。

昨今の12~18個の多ドライバIEMは、高域用のBAドライバを沢山積む事でドライバの数を稼いでいます。
実装的な都合としては、小さいドライバで数を稼いだほうが、実装難易度は下がるわけです。
また、各人の耳の大きさなどの差異に対応しやすいです。

ただですね、でっかいBAが一杯入ってたほうがインパクト大きくないですか?
なんかアメリカっぽくないですか??

また、NEXT5シリーズがDTECを2Wayで使ったことで、周波数特性を大きく
変えられた反面、能率が下がってしまった問題がありました。
THANATOSではDTECを6個つむことで、2Way以上の帯域分けが
できるのではないかと考え、3Wayで使おうと考えました。

上記のような(主にアメリカっぽいのではないかという)理由で、DTECを6個つむことにしました。



DTECの配線ですが、こんな感じ。3Wayということで、各帯域に2ユニットずつ使っています。
また、DTECにも前面にハウジングを被せます。RABのハウジング装着時、音導から遠い
BAドライバの音圧が大きくなっていたので、その対策としてなんとなく
音導に近いBAドライバの前面容積を拡大すべく三角柱の空間にしました。しかし、この
形状ではこの問題は解決されず。やはり左右対称、対称軸上で設置するのが正解のようですね。



あらかじめ伸ばしておいた音導管を通します。RABの音導管とあわせてこんな感じ。
車のエンジン内のような様相を呈してきましたね。



ネットワークの実装を終え、MMCXコネクタを実装しました。コネクタの収まるスペースが
ないのでちょっと飛び出ます。後でコネクタ周りの形状を整えましょう。
DTEC6個がシェルからはるか飛び出てしまうので、樹脂充填でシェルを形成していきます。
なるかどうかまったく分からないIEMのシェルに、樹脂をなみなみと流しこんでいくわけです。
ならなかったらもう二度とやらないでしょうね・・・。

【完成した24ドライバ。その音は?】

樹脂充填して、もう内部のBAドライバを取り出せなくなった24ドライバIEM、THANATOS.
その全貌はこちら。



まず、WBFKの音導管がこんな感じになってます。シェル用樹脂と同じ樹脂で音導管ハウジングを作ったので、
樹脂の透明度(屈折率)がまったく同じ。樹脂充填するとその境目が分からなくなり、
音導管の空洞だけがポッカリと開いているように見えますね。
その空洞の真ん中を、2本のチューブが通っています。これは狙い通り。
高域用BAの音導管の長さが13mm程度なので、freqphase的な処理になってません。
訴訟回避成功だね!

まぁ外耳道の第一カーブという、きゅっと細まったところにポッカリと空洞が開いてしまっているので、
強度的には弱いかもしれませんね。樹脂充填していることで多少はマシになっているかもしれませんが。



RABのハウジングは、耳のコンチャ(concha,耳甲介)の部分に収まり、外耳道とは180度違う方向を向いています。
それを、横出しした音導管で、カナル先端に向けていくわけです。音導管の長さも長いので、
その取り回しとあわせて多少の物理的なローパスがかかっているかな?
ほんとにエンジンみたいですね・・・







最後にDTEC部。ネットワークはヘリクスやらコネクタ付近やらいろんなところに
散らばってますが、何とか納まりました。

24ドライバ5WayのIEM、THANATOS.その特性はこちら。



肝心の音はというと・・・控えめに言ってクソ、それもそびえ立つほどに(

6個積んだDTECが思いのほかインピーダンスが下がり、音全体のバランスの中で
かなりの比重をしめています。
中高域については、こちらもRABの比重が大きく、WBFKが能率的にあまり仕事ができていません。

樹脂で固めるまではまともな測定ができないので、「ネットワークをあーすりゃよかったな」
的な反省も後の祭り。部品代だけで7万かけてもこういう結末が待っていました\(^○^)/
たとえ完成したとしても、製作者の心を折りに来るTHANATOS、恐ろしいね!

さて、そんなこんなで何とか片耳だけでも完成させたTHANATOS.
Freqphase的なものを使わない、中・高域に使ったBAドライバはシングルドライバ、
最も多くのBAを費やしたのは低域と、
最近の多ドライバIEMとは真逆の方向性を持ったIEMになりました。カスタムIEM
および高級ユニバーサルIEMシーンに一石(もしくは「うまのふん」)を投じる
何かになればこれ幸い。

ここまでお付き合いいただきありがとうございましたm(_ _)m









2017年8月4日金曜日

新機種紹介その2『KL-SIRIUS』 ~ドンシャリでもフラットでもない音を目指し て~

4/28より新発売しました3機種『KL-CORONA』、『KL-METEO』、『KL-SIRIUS』。

本日は4way-4Driversの『KL-SIRIUS』の詳細をご紹介します!

■『KL-SIRIUS』の音作り。ドンシャリでもフラットでもない、全帯域をバランスよく鳴らすIEM。


KL-SIRIUSは、全帯域をバランスよく鳴らすサウンドに、深く沈みこむような低域表現に重要な50Hzと、
繊細な高域表現に重要な10kHz付近にピークを持つようにチューニング。
楽曲を自然に再生しながら、超低域と超高域もきちんと表現する仕上がりになっています。
KL-CORONAと同様に、BAドライバの苦手な100Hz以下の低域を確保するために、中低域のBAドライバを2Wayとして使用しています。


BAドライバの持つフラットな周波数特性をフルに生かしながら、和太鼓など打楽器の振動から生まれる深い低域を表現できるように、
50Hz付近を持ち上げています。KL-CORONAと比べて、ローパスフィルタをかかり具合がきつく設定されているので、
よりタイトな低域の量感となっています。

高域は、刺さりが出ないよう7kHz付近のピーク感に注意しながら、爽やかで繊細な質感を表現できるよう、
10kHz~12kHz付近にピークを持つようにチューニングしました。
試作段階では、もっと高域の主張が強い華やかな音を目指したこともあったのですが、
「聴き疲れしない」、「聴く音楽のジャンルを選ばない」という2点を考え、いまの高域のバランスにしました。

全体としては、200Hz~500Hz付近を盛り上げたような低域表現、2~4kHz付近にピークを持つような高域表現とは違う、
ドンシャリでもフラットでもない、自然でありながら独特な音を奏でるIEMとなりました。


■細やかだけど自然な「4Way」という帯域分け


KL-SIRIUSのもう一つの特徴は、4Wayという帯域分け。くみたてLabのIEMでは最多の帯域分けです。
○Wayとは何か ー それは、人の可聴域(20Hz~18kHz)をいくつかに分割して考え、
分割した帯域にそれぞれBAドライバを割り振る。厳密な定義とは違いますが、IEMを設計する時に私はそんな風に考えています。
 
BAドライバでIEMを構成すると、2Wayが自然なのでは?と私は考えます。
低域用BAドライバが100Hz~2kHzを担当、高域用BAドライバが2kHz~10kHzを担当。
それ以上の高域は、カナル先端と鼓膜までの空間が左右します。

KL-CORONAの紹介でも触れましたが、BAドライバがフラットに音を出力することを考えると、
素朴にネットワークを組むならば上記の2Wayがシンプルかつ万能のようにも思えます。

SIRIUSでは、上記の2Wayに、20Hz~100Hz、6kHz~12kHzという帯域のボリュームを上げることを狙って、
帯域分けを2つ追加しました。その結果、4Wayとなったのです。


ただ、帯域分けを多くすると各クロスポイントでの位相ずれによるディップに気を付けなくてはいけません。
SIRIUSでは、各BAドライバにつながる音導管の長さを厳密に指定し、また音響抵抗の音導管内での位置を
一つずつ変えることで、全体としてなめらかな音のつながりになるようにしました。
先に示した周波数特性のように、ディップがなくフラットなカーブを描くことに成功しています。


また、意図しないピークの出現にも、最大限注意を払っています。
音響抵抗の位置によっては、「低域用BAドライバが、高域にピークを持ってしまう」、
「高域の質感がキラキラしすぎて刺さってしまう」、などの問題が起こりうるのですが、
設計にあたっては1mm単位で比較して、このような問題が起こらないように配慮しました。


■ 超高域用BAドライバを余裕をもって鳴らす。”重め”の抵抗値を用いる工夫。


6kHz以上の超高域を担当するBAドライバをどう扱うか?キンキンとした華やかさではなく、
自然でありながら「爽やか」な高域を再生するために、超高域用BAドライバには比較的
大きい抵抗値をもつ抵抗を挟んでいます。
高域の音圧を下げるには、大き目の抵抗値を挟んで能率を下げる方法と、音響抵抗によって
音圧を下げる考え方があります。

大きな入力があった時、BAドライバが余裕をもって音を出せるよう、SIRIUSでは
大き目の抵抗値を挟んで能率を下げる方法を選択しました。
これにより、いわゆる「サ行」の刺さりや、ピアノやシンバルの音などが歪むような不快な音を
避けるようにしています。



 ■4ドライバでありながら4Way.丁寧に作り上げた「ユニークで自然」な音。

 


『KL-SIRIUS』は、音導管の長さ、音響抵抗の位置、ネットワーク回路の工夫といった、
オーソドックスな手法を用いながらも、ユニークな音作りを目指しました。

ただ、CORONAやMETEOといった、パンチのある低域やきらびやかな音とは一線を画すように設計していった結果、
ドンシャリでもなくフラットでもない、自然でありながらユニークな音に仕上がりました。

もう決して、多ドライバと言えなくなった4ドライバIEM.
ただ、『KL-SIRIUS』 はその4つをフルに使い切り、設計の延長線上には12、16、20といったIEMが
あります。
4ドライバという、ドライバの数に騙されないで欲しい、そんな思いはSIRIUSにも込められています。
手前みそですが、丁寧に作った4ドライバ。
試聴機貸出サービスも始めましたので、ぜひKL-SIRUSの音を体感してください。
そのうえで、SIRIUSを愛機に選んでいただけましたら幸いです!